町奉行所の同心は有名ですが、旗本家にも同心がいました。
ある旗本家の同心が自分の父親の命日に菩提寺の僧を自宅に招き、その夜は僧を泊めることにしました。
その夜、戸を開け閉めする音に盗人でも入ったかと思い、同心が刀を持って出ていくと、慌てて裏口から逃げていく者があります。
同心が刀を抜いて追いますが逃げる者は止まらない。
やっとのことで追いすがり、同心は逃げた者の背中を切りつけました。
大声で近くの同僚たちを呼び、出てきた同僚の持つ明りで確かめると死んでいたのは命日に呼んだ僧でした。
家に帰った同心が下女に事情を聴くと、住職は下女が寺にお使いに行くとなんのかのとちょっかいを出してくる人だったが、いよいよ今日の夜、下女の部屋に夜這いに入ってきたということでした。
この事件を最初に受け持ったのは阿部重次でしたが、重次からこれを聞いた家光はなぜか満足しない様子。
阿部忠秋にさらなる詮議を命じましたが、忠秋もこれといって新しい事実を出すにはいたりません。
そこで家光は信綱に詮議を任せました。
二人が詮議して新事実が出てこなかったのだから自分が詮議したところで変わりはないだろうと乗り気ではなかった信綱ですが、ともかく評定所に出向いて同心と下女を審問することにしました。
同心と下女の姿を見た信綱は引っかかるものを見出しました。
下女はまだ十二・三歳でしたが既婚の者がするように眉毛を抜き、留袖を着て、歯も白歯(何もつけていない歯)ではありませんでした。
信綱は同心を別室に控えさせ、下女だけにしてから素直に話さなければこうなるぞと拷問の数々を語り、下女にいつから歯を塗り、眉を抜き、留袖を着るようになったかを訊ねました。
はじめはごまかそうとした下女ですが結局事の次第を白状しました。
それによると、事件の日同心は僧に食事を出し、風呂をすすめた。
僧が風呂に入った時に僧が首にかけていた頭陀袋を同心が探ると、中に小判が七・八枚入っているのが分かりました。
そこで同心は風呂から上がった僧に酒をすすめ、酔わしたうえで宿泊を持ちかけました。
その後、僧を殺して金を盗み、事件を偽装したのです。
下女ばかりか、近隣の同僚たちにも口裏を合わせることに成功したため、真相が見抜けなかったのです。
その後、同心も自白したため、本来ならば斬首に処すべきところ、信綱は切腹を申し付けました。
それにしても家光は何に引っかかったのでしょうか。
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