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松平信綱公にまつわるエピソード
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Episode
10 医師を叱る
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江戸城には常時医師が詰めていますが、その中の一人に寿命院という医師がいました。寿命院は自宅での開業も許されるような人でしたが、ある夜信綱にこう言いました。
「当代から医師もお城に宿直することになりましたが、これは急病人が出た場合を考えてのことでしょうか。」
それに対し信綱はその通りだと答えた後、刀を例に説明しました。
「腰の刀が必要になることは一生のうちでもきわめて稀だが、非常の際を考えていつも佩用していなければならない。医師をつねに御城内に控えさせておくのも、それと同じことだ。」
すると寿命院は、
「その刀は、錆びさせておくものでしょうか。あるいは、研磨してから佩用するものでしょうか。たぶん、研磨してから佩用するのでしょう。しかし、医師はつねにあちこちの病人を治療しないと腕が落ち、錆び刀同然となってしまいます。われらは交代で当直をしますので急病人が家にやってこなくなり、治療にあたる機会が減って腕が錆びつく傾向にあります。これをどう思し召されましょう。」
これに対して信綱は、医師は何人いて、当番は月に何日まわってくるのかを問い返しますと、寿命院は医師は十人で一人につき一か月に当直が三回あると答えました。それを聞いて信綱は、
「それならば一か月三十日のうち、二十七日は非番ではないか。刀や脇差にせよ、一年三百六十日寝刃を合わせていては(刀を研ぐこと)刀身が磨り減ってかえって鈍ら(なまくら)になってしまう。一か月に三日ばかり寝刃を合わせずとも問題なし。医術にせよ同じことだ。」
寿命院は、返す言葉もなく退出したということです。
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